菩提寺とは、その家の先祖代々のお墓があり、葬儀や法事を執り行ってもらっているお寺のことです。この菩提寺との関係を無視して、勝手に葬儀をやらない(直葬にする)という決断を下してしまうと、後々、取り返しのつかない深刻なトラブルに発展する可能性があります。最も大きなリスクが、「納骨を断られてしまう」という事態です。仏教において、葬儀は故人が仏の弟子となり、戒名を授かって、仏様の世界へと旅立つための、非常に重要な儀式です。お寺の住職は、その儀式を司ることで、故人の成仏を導きます。その大切な儀式を省略し、お寺に何-の相談もなく、火葬だけを済ませてしまった場合、お寺の側からすれば、「仏弟子としての手続きを経ていない方を、当寺の墓地に納めることはできません」という判断になるのは、ある意味当然のことなのです。そうなると、ご先祖様が眠るお墓に、故人のご遺骨を納めることができなくなってしまいます。新たにお墓を探すとなれば、精神的にも経済的にも、計り知れない負担がご遺族にのしかかります。また、たとえ納骨を許してもらえたとしても、その後の関係性が気まずくなり、一周忌や三回忌といった、その後の法要をお願いしにくくなってしまうかもしれません。では、どうすれば良いのでしょうか。菩-提寺があり、かつ、直葬を希望する場合は、必ず「ご逝去後、できるだけ早い段階で」、菩提寺のご住職に直接相談することが不可欠です。電話で一報を入れた上で、お寺へ伺い、「父の生前の遺志で、葬儀は行わず、火葬のみでと考えております。大変恐縮なのですが、お許しいただけますでしょうか」と、正直に、そして誠実に相談します。その上で、もし可能であれば、火葬の際に、火葬炉の前で短い読経だけでもお願いできないか、と伺ってみましょう。この「炉前読経」と、仏弟子としての名前である「戒名」を授けていただくことで、お寺様も故人の弔いを果たしたと判断し、その後の納骨を快く受け入れてくれる場合がほとんどです。菩提寺との関係は、何世代にもわたって築き上げてきた、家にとっての大切な繋がりです。その繋がりを断ち切ることのないよう、敬意と感謝の気持ちを持って、対話を尽くす姿勢が何よりも求められます。
菩提寺があるのに葬儀をやらないリスク