「葬儀は執り行いません」。この決断をご遺族が下した時、次に直面するのが、その事実を周囲の関係者に、いかにして角を立てずに伝えるか、という非常にデリケートな問題です。ここでは、葬儀をやらない(直葬にする)ことを、周囲にスマートに伝えるためのポイントと文例をご紹介します。まず、伝えるべき相手は、主に親族、そして故人が生前親しくしていた友人・知人、会社関係者です。親族、特に年配の方々には、電話で直接伝えるのが最も丁寧な方法です。その際には、なぜ葬儀を行わないのか、その「理由」を誠実に説明することが、理解を得るための鍵となります。「故人の生前の強い遺志によりまして、通夜・告別式は執り行わず、火葬のみで静かに送ることにいたしました」といったように、「故人の遺志」を理由にすると、相手も反対しにくくなります。「経済的な事情で」といった、こちらの都合を前面に出すよりも、故人の尊厳を守る形での説明を心がけましょう。友人・知人や会社関係者へは、葬儀が終わった後、少し落ち着いてから、はがきや封書による「事後報告」の挨拶状を送るのが一般的です。この挨拶状にも、同様に、葬儀を行わなかった理由を必ず明記します。そして、「ご通知が遅れましたことを深くお詫び申し上げます」と、事後報告になったことへのお詫びと、生前の厚誼に対する感謝の気持ちを丁寧に綴ります。また、弔問や香典を辞退したい場合には、その旨も明確に記載しておくことが、相手に余計な気遣いをさせないための、重要な配慮となります。「誠に勝手ながら、ご弔問ならびに御香典につきましても、固くご辞退申し上げます」といった一文を添えましょう。以下に、挨拶状の文例を記します。「父 〇〇 儀 かねてより病気療養中のところ 去る〇月〇日 〇歳にて永眠いたしました ここに生前のご厚情を深謝し 謹んでご通知申し上げます なお 葬儀は故人の遺志により 近親者のみにて火葬を執り行いました ご通知が遅れましたこと お詫び申し上げます 誠に勝手ながら ご弔問ご香典につきましても 固くご辞退申し上げます」このような丁寧な伝え方をすることで、葬儀をやらないという選択が、決して故人をないがしろにしているわけではなく、故人の意思を尊重した、一つの尊いお別れの形なのだと、周囲に理解してもらうことができるのです。