「最後は自然に還りたい」という願いを持つ人が増える中、その選択肢として樹木葬などの自然葬が注目されています。古来からの埋葬方法である土葬も、遺体をそのまま土に還すという意味では、究極の自然葬と捉えることができるかもしれません。しかし、現代の「樹木葬」と「土葬」には、似ているようでいて、根本的な違いが存在します。最も決定的な違いは、埋葬されるのが「ご遺骨」か「ご遺体」かという点です。樹木葬は、ご遺体を火葬した後の「ご遺骨」を、墓石の代わりに樹木をシンボルとしてその下に埋葬する方法です。骨壺のまま埋める場合や、布袋などに移して直接土に触れるように埋める場合がありますが、いずれにせよ火葬を経ていることが大前提となります。一方、土葬は、火葬を行わず、「ご遺体」をそのまま棺に納めて土中に埋葬します。ご遺体が微生物によって長い年月をかけてゆっくりと分解され、土に還っていくというプロセスを辿ります。この違いは、法律上のハードルにも大きく影響します。樹木葬は火葬後のお骨を埋める「埋蔵」にあたるため、許可された墓地であれば比較的容易に行えます。しかし、土葬は多くの自治体条例で制限されており、行える場所が極めて限られています。また、現代的なエコロジーの観点から見ると、土葬が必ずしも環境に優しいとは言い切れない側面もあります。例えば、ご遺体の保全のために施されるエンバーミングでは化学薬品が使用されます。その点、樹木葬は、より現代人の自然志向や環境意識に合致した選択肢として広がっていると言えるでしょう。宗教的な教義に基づく土葬と、個人の価値観から選ばれる樹木葬は、「自然に還る」という共通のキーワードを持ちながらも、その背景と思想は大きく異なっているのです。